誌名「好・信・楽」について

小林秀雄氏の「本居宣長」第五章に、宣長の学問に対する基本的態度は早い頃から動かなかったとして、二十代の京都遊学時代のものと推定される友人宛の手紙が紹介されている。

当時、学問といえば儒学であったが、その儒学に熱心とは見えず、仏教に興味を寄せていると見えた宣長に、ある友人がとやかく言ってきたらしい。それに対して、宣長はこう返した。

――僕が仏教の本を読むのは、これを好み、信じ、楽しんでいるのである、この好み、信じ、楽しむは、仏教の本にかぎらない、儒教や道教や諸氏百家の本も同じである。自分のこの「好信楽」という態度からすれば、歌舞音曲から山川草木に至るまで、天地の万物みな僕の「賞楽」の対象である……。

宣長は、この「好信楽」の態度で「源氏物語」を読み、「古事記」を読むのである。本誌の誌名はここに拠っている。

小林秀雄氏も、「好信楽」の人であった。文学、歴史、哲学、科学、音楽、絵画、骨董、登山、ゴルフ、酒、食、桜……、分け隔てすることなくこれらを好み、これらを信じ、これらを楽しんで生きた。

私たちも、本居宣長と小林秀雄氏に倣って生きようとする。まずは日々、小林氏の「本居宣長」に書かれている言葉を好み、信じ、楽しんでいる。

 (編集部記)